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赤い電車の京浜急行は、かつて横浜駅以北を京浜電気鉄道が、黄金町駅以南を湘南電鉄がそれぞれ営業をしていた路線であり、昭和6年にお互いが日ノ出町まで線路を伸ばすことによって接続が果たされ、ようやく現在のようなひとつの路線となった。 この両社による延長によって生まれた日ノ出町駅、戸部駅、そして今はなき平沼駅は、今に至っても当時の名残を色濃く残している。
とかくボロい汚いと文句を言われやすく、それゆえに更新が絶え間なく行われる駅施設であるが、大手私鉄にあって戦前のものが未だに現役であるとは吃驚させられる。

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日の出町駅上りホーム
支柱覆いのタイルアート


京浜・湘南両社がドッキングした日の出町駅は、野毛や伊勢佐木に近いこともあってかつては大勢の乗降客で栄えた駅であったが、普通車しか停まらない今では場外馬券売場か赤提灯、はたまた風俗へ行く最寄り駅の感ばかりが強いうらぶれた駅になってしまった。 そんな当駅にあって昔日の鉄道会社の熱意を感じさせてくれるのが、上りホームにあるタイルアートである。

以前は下りホームにもあったのだが現在は消えてしまい上りホームだけに残っている。屋根支柱の覆いには、湘南電鉄の商圏である三浦半島とその周りの海がそれぞれワインレッドと白色のタイルによって模られており、一箇所だけ黒いタイルが嵌められている箇所がこの日の出町駅の位置を示している。

このタイルの地図は駅創業時からあるらしく、殆どが埋め立てられた東京湾側の海岸線が今とは大きく違っている。タイルで商圏の地図を描くという細かい芸当は昔ならではだが、しかしこのタイルアートに気付いている客はどれだけいるのだろうか。どこか日の出町駅を漂う斜陽の色を濃くしているようにも思えてしまう。




日の出町駅
右手(2番線)が上りホーム




戸部駅
狭いホームと古風な階段


日ノ出町駅の隣駅である戸部駅も地味ながら古めかしいな雰囲気が残っている。リベットがボコボコ出ている武骨な屋根とその支柱や梁にも眼を惹かれるが、高架上の狭いホームと地上の改札を結ぶ階段からも時代の流れを感じずにはいられない。シンプルながらも曲線美と直線美を組み合わせて作られた階段口を囲む木造の柵はいかにも戦前の意匠であり、また手摺が取り付けられている柱にも震災復興期以降に流行ったアール・デコ調の装飾が施されている。

各駅停車しか停まらず、周辺にはこれといった場所もない小さな駅なので、普段からこの駅を利用している人以外はこうした戦前の名残に気付くこともないだろうが、だからこそ昔の姿ままで在り続けられたのかもしれない。




戸部駅
階段のアール・デコ調装飾




車中から撮った平沼駅跡


最後にもう一箇所。横浜から下りの京浜急行に乗ると戸部駅手前の線路両側にプラットホームの廃墟のようなものがあることに気付く。これは戦時中まで営業していた旧平沼駅の跡である。そもそも両隣の駅との間隔が短いことを理由に昭和18年には営業休止になっていたのだが、その後そのままにしていたところに昭和20年5月29日の横浜大空襲を受け、駅はすっかり焼け落ちて見るも無残な姿となってしまった。本来ならば取り壊して片つけてしまうものだが、空襲の惨禍を後世に残さんと敢て空襲を受けた時のままの姿を残しているのだという。ただ、よく見るとそればかりではなく、ホーム等駅施設と高架下のテナントスペースが接合しているという構造上、壊せないからやむを得ず残していると思われる箇所も見受けられる。

この京浜急行の線路沿いには横浜大空襲による傷跡が未だに数多く残っている。この空襲だけで8000〜10000人近い犠牲者が出たと言われているが、とりわけ黄金町駅の惨劇はその悪しき象徴として有名である。この日の黄金町駅では、空襲警報によって駅に下車させられた乗客が戦闘機からの機銃掃射を避けるべくそのまま駅の中に避難したのだが、この辺りは建物疎開が済んでいたために多くの周辺住民がこの駅構内やガード下に既に避難していた。このような状況下で雨のように焼夷弾が大量に投下されたために一帯は業火に囲まれてしまい、逃げ場を失った避難民600人以上の命が一度に奪われてしまったのだった。襲いかかる熱風から逃げるために階段を這いあがろうとする人々が折り重なるように焼死したという。この黄金町から南太田にかけての高架橋をよく見るといまだに天井が黒く焦げ残っており、随所で鉄骨が露出している。

良くも悪しくも、京浜急行の各駅は昭和という一時代を色濃く残している。


 

平沼駅跡外観・1
タイルや階段が当時のまま現存




平沼駅跡外観・2
テナントスペースと駅施設が一体化しているようだ


所在地
 日ノ出町駅:中区日ノ出町1丁目 地図(MAPFAN)
 戸部駅:西区戸部本町 地図(MAPFAN)
 平沼駅跡:西区平沼1丁目 地図(MAPFAN)


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