風色top東京蒐集録top東京蒐集録07東京蒐集録09


都内には鉄道の駅から離れた「陸の孤島」と呼ばれる地域が各区に存在していたが、地下鉄の開通等によってかなり解消され、山手線内に至っては駅まで徒歩10分以上かかる場所が消えたとされている。
視野を23区内全域に広げるとまだまだ解消されていない箇所もある。板橋区大谷口もかつてはそうした典型的な陸の孤島で、畑が点在する長閑な郊外地であったが、有楽町線の開通によって交通事情が改善され、それ以来辺りはすっかり住宅地一色となっている。
この大谷口付近には谷戸地形、つまり台地に谷が食い込んでいる箇所が見られ、宅地造成によって目立たなくなっているものの、全体的に起伏の多い地形となっている。とりわけ大谷口地区には地形の高低を象徴するかのような光景が共存しており興味深い。

画像をクリックすると拡大版がポップアップ表示されます。




大谷口給水塔


大谷口のランドマークといえば、やはりこの給水塔だ。昭和6(1931)年、荒玉水道によって建設されたもので、高さが約33メートル、直径が約15メートルである。いかにも戦前を感じさせるデザインだ。昭和47年まで使用されていたが、老朽化のためその後は使われずにいる。

荒玉水道の給水塔で残っているものといえば、ここの他には野方があり、いずれも多摩川の砧で取水・浄水した水を自然流下によって配水していたのだが、現役時代の大谷口給水塔は地元の大谷口地区へ給水しておらず、ちょっと離れた滝野川や王子方面へ給水していた。使用停止後は取り壊しが検討されたが、地元から保存の声が強く、30年以上経った今でもそのまま聳え立っている。

しかし、遂に取り壊しの日がやってきた。都水道局はこの給水塔を解体し、新たに板橋・豊島区へ給水を行う施設を建設する。早ければ平成16年度中にも着工される模様である。依然地元からの保存の声があるものの、老朽化が激しいために保存は不可能らしい。
<関連リンク>

一般的に給水塔は配水時の水圧を発生させる必要があるため、大抵の場合付近で一番かそれに準じた高い丘の上に建設される。即ちこの給水塔がある場所は、付近でも標高の高い所であることがわかる。




住宅密集地入口
左側の細い下り坂が入口


この給水塔のほぼ真下には、給水塔の「高」とは対照的な「低」という位置関係をなす一角がある。大谷口上町には日大病院があるが、そこからちょうど南にある給水塔の丘に向かって、切れ込むように刻まれた狭く深い谷があり、その谷底には昭和の色彩を濃く残している古く小さな木造家屋がビッシリと犇きあっている。

まるで他者の進入を阻むかのように狭く急な坂を下りて谷底へたどり着くと、冬だからだろうか辺りは昼でも日が当たらず、暗く湿った空気が漂っていた。この地域内の道は、一番広くてもやっと自転車が通れるほどの幅しかなく、その道に沿って木造の老朽家屋が隙間無く軒を連ねていた。一歩入れば道路付けされていない民家もあり、寧ろそうした家の方が多い。

この谷あいはかつて「下り山」と呼ばれており、その谷頭の湧水池には近隣農家の野菜洗場があった。また山裾の下流には洗い場の湧き水を溜めた用水池が作られ、大谷口一帯の農業用水として使われていた。
今でも住宅や掲示板の壁には旧字体で記された琺瑯製の古い町名表示が貼られているが、この住宅密集地はさほど古いものではないようだ。というのも、終戦後の昭和20年代前半に米軍が撮影した航空写真を見る限り、この地域に住宅は見られないので、おそらく戦後の住宅不足の時期かそれ以降に形成されたものと思われる。
板橋区の郷土資料によれば、戦後の大谷口では昭和25年頃から宅地化が進んだのだが、特にこの時期には地域の特産品である練馬大根にバイラス病が蔓延し、大根生産に見切りをつけた農家が畑を貸地に転換したので、これが地域一帯の宅地化を加速させたようだ。とすれば、この住宅密集地も同時期に形成されたのかもしれない。
<終戦時の航空写真は国土地理院の「空中写真閲覧サービス」を参照>


ここもそうだが、豊島区東池袋4〜5丁目、元麻布の旧宮村町域、墨田区京島など、地域の道路が狭隘で車や重機の入ってこられないような場所は、その地理的要因が街の新陳代謝を阻むのだろう、高度経済成長期以前の東京を思わせるような木造住宅密集地が残っているものだ。
もっとも板橋区ではこうした状況を黙ってみているわけではなく、この地域を「住宅地区改良事業」対象地区に指定して早急なクリアランスを図ろうとしている。事業では老朽家屋を不良住宅と認定して区が買収し、跡地に改良住宅や生活道路を建設して、災害に強く住環境の整った街造りを目標にしている。街中にもその概要が貼られた看板が立てられていた。しかし、対象面積は大したこと無いものの、対象戸数が多いために、そう簡単に話が進むとは考えにくい。かと言って、このまま現状を放置しておくと、大災害が発生した際に大惨事が発生することは必死だ。街や生活というものを考えるに当たって、こうした問題は実に頭の痛いところである。




古い住所表示




地域のメインストリート




道路付けされていない家屋




谷頭付近


所在地
 給水塔:板橋区大谷口1-4 地図(MAPFAN)
 住宅密集地:板橋区大谷口上町49〜60 地図(MAPFAN)


風色top東京蒐集録top東京蒐集録07東京蒐集録09メール

(c) 2004 K-I All rights reserved.